かなりの本を家に置いていくので、出発する前にまとめてレビュー。
『アントニーとクレオパトラ』(シェイクスピア/福田恆存訳・新潮文庫)
シェイクスピアの史劇。エジプト最後の女王クレオパトラと、彼女に首ったけとなったローマの将軍アントニーの、許されぬ愛と破滅の物語。
ここに出てくるアントニーは、一貫性というものをほとんど持っていない。クレオパトラに夢中と思えばかつての妻の死には本気で嘆き、ローマの危機にはクレオパトラを袖に振ってまで駆けつけ、しかもその心を(こういう時に限って)保ったまま、シーザー(オクテイヴィアス)の姉オクテイヴィアと結婚してしまう。それでもやはり、本心はクレオパトラにある。
彼の心はわからない。クレオパトラの方はだいたい一貫してアントニーのことを思っているのがわかるのだが、アントニーはどうしようもない。全体的に、彼が常に本気で動いている感じはするが、それがあまりにも場当たりに見えてしまう。
クレオパトラの行動も、戦争に加わってみると思えば逃げてみたり、やっぱり一貫性のないところはあるのだが、それが女だ、と割り切ってみれば理解できないこともない。だがアントニーはむちゃくちゃだ。
『古代への情熱―シュリーマン自伝―』(シュリーマン/関楠生訳・新潮文庫)
トロイア戦争の物語を本当と信じ込んで、商業で一財産蓄えてから、私費で発掘して、本当にトロイア遺跡を掘り出してしまった、一変人の伝記・評伝。
信じられない話ばかりが出てくる。数多くの言語を独学で学び、「大きな声でたくさん音読すること、ちょっとした翻訳をすること、毎日一回は授業を受けること、興味のある対象について常に作文を書くこと、そしてそれを先生の指導で訂正すること、前の日に直した文章を暗記して、次回の授業で暗誦すること」(p.26)で次々とマスターし(彼は日本語も学び、実際に日本に行って、その感想を残している)、その外国語の力と幸運と商才であっという間にぼろ儲けしたのだ。
で、その努力すべてが、トロイア遺跡を掘り出すためだけのものだというから、恐ろしい。世界最大の馬鹿だ。バカランキングトップクラスだ。
しかしそれを本当に実行し、しかも成功させたのだから、彼はひと味違うのだ。
シュリーマンの方法は荒々しいと批判もある。ところが彼は、ただ適当に掘り出して大喜びするだけの人間ではなかった。ホメロスのテクストを完璧に読み込み、しかもそれを完璧に信じて、場所の見当をつけていって、そこを掘ったのだ。現代人の先入観を一切排除して、ただテクストのみで発掘したというのは、なかなかない話だ。
そして、彼はその方法を貫くだけでなく、学術的分析も試みた。自分がわからない部分は専門家を呼び、さまざまな資料からそれを研究する。
彼はただ掘るだけではない。しかし、当時の考古学は、「想像する」前に「批判する」ことをなし、「掘ってみる」前に、「嘘だと否定」してみせたのだ。
それでは何も出てこない。
『戦争と平和』(トルストイ/工藤精一郎訳・新潮文庫)
ナポレオンのロシア侵攻のころの、ロシアの名門貴族たちの青春群像。